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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)14025号 判決 1970年8月17日

原告

小暮章

被告

共立輸送株式会社

主文

被告は原告に対し金二三万九〇二一円およびこれに対する昭和四二年一二月一日以降完済まで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを一〇分し、その九を原告の、その余を被告の各負担とする。

この判決は、原告勝訴の部分に限り、かりに執行することができる。

事実

第一、請求の趣旨

一、被告は原告に対し、七六七万三〇八九円およびこれに対する昭和四二年一二月一日以降完済まで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

との判決および仮執行の宣言を求める。

第二、請求の趣旨に対する答弁

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第三、請求の原因

一、(事故の発生)

原告は、次の交通事故によつて傷害を受けた。

(一)  発生時 昭和四二年一二月一日午後七時四五分頃

(二)  発生地 東京都江東区大島七丁目一三番一八号先交差点

(三)  事故車 大型貨物自動車(足立ハろ一〇二号)

運転者 訴外下川浩

(四)  被害者 原告

(五)  態様 原告が路上に足を投げ出して坐つていたところ、その足を事故車が轢過。

二、(責任原因)

被告は、事故車を保有し自己のため運行の用に供していたものであるから、本件事故によつて生じた原告の損害を賠償する責任がある。

三、(損害)

原告は、本件事故により右第三、四中足骨々折、右足根骨脱臼骨折兼挫滅創および右足部峰窩繊炎、左足背部挫創の傷害を負い、江東病院に昭和四二年一二月一日から同四三年四月一〇日まで入院、さらに退院後三回通院して治療を受け、自賠法施行令別表等級八級相当の足趾運動障害等の後遺症を残して治癒した。

そして、その損害は次のとおり算定される。

(一)  治療費等 一一万三八二〇円

1 入院治療費等 四五万〇七四〇円のうち

一〇万七七四〇円

2 通院治療費等 三四九〇円

3 松葉杖代 一八〇〇円

4 温布薬代 七九〇円

(二)  休業損害 四九万六六一九円

原告は、建築工事の常用大工として青木組で働いていたもので、本件事故により昭和四二年一二月一日から同四三年七月三一日までの八月間休業を余儀なくされ、その間の喪失賃金は平均月収六万七五五九円として五四万〇四七二円と算定されるところ、原告の食費は一月平均一万〇一二〇円であるから、入院期間に相当する四月一〇日分の食費合計四万三八五三円を控除すると右金額となる。

(三)  逸失利益

1 昭和四三年八月から同四四年六月までの分四四万三一〇二円

原告の事故前の平均月収が六万七五五九円であるところ、右負傷の結果事故後の右期間の平均月収は二万七二七二円であり、その差額四万〇二八二円の右期間相当分、右金額の得べかりし利益を失つた。

2 昭和四四年七月以降の分 五九八万四五四八円

原告は、前記後遺症により、次のとおり将来得べかりし利益を喪失した。その額は右金額と算定される。

(生年月日) 昭和八年一二月九日

(稼働可能年数) 六〇歳まで 二五年

(労働能力低下の存すべき期間) 全稼働可能期間

(収益) 一月平均 六万七五五九円

(労働能力喪失率) 五〇パーセント

(右喪失率による毎年の損失額) 三七万五三四八円

(年五分の中間利息控除) ホフマン複式(年別)計算による。

(四)  慰藉料 一七〇万円

原告の本件事故による精神的損害を慰藉すべき額は、前記の諸事情および賠償請求に応じない被告の不誠実な態度を考慮すると右金額が相当である。

(五)  損害の填補

原告は被告から損害賠償の内金として既に一〇万円の支払いを受けたほか、強制保険金一〇一万円の支払いを受けているので、これを以上損害額に充当した。

(六)  弁護士費用 四万五〇〇〇円

四、(結論)

よつて、原告は被告に対し以上損害合計七六七万三〇八九円およびこれに対する事故発生の日である昭和四二年一二月一日以降完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第四、被告の事実主張

一、(請求原因に対する認否)

第一、第二項の事実は認める。

第三項のうち、冒頭の傷害の事実および(五)、(六)の事実は認めるがその余は知らない。

二、(抗弁)

(一)  免責および過失相殺を主張する。

(二)  損害の填補

原告は、その主張の額のほか、強制保険金五〇万円および被告からの四万円の弁済を受領しているので、右金額は合せて損害額から控除さるべきである。

第五、抗弁事実に対する原告の認否

第一項は争う。

第二項のうち、強制保険金五〇万円の支払いを受けたことは認めるが、四万円の弁済受領の点は否認する。

第六、証拠関係〔略〕

理由

一、(本件事故の発生および被告の責任原因)

請求原因第一、第二項の事実については当事者間に争いはなく、また被告は免責を主張するもののその具体的要件につき主張がないから右主張はこれを容れるに由なく、結局、被告は自賠法三条により原告が本件事故によつて蒙つた損害を賠償する責任がある。

二、(過失相殺)

〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。

1  本件事故現場は、工場地帯にあるいずれも歩車道の区別のない幅員六・五米の南北道路と幅員五・三米の東西道路の交差点であり、南北道路の交差点北側一三・六米のところには堅川に架けられた中の橋があり、右各道路は中の橋に向けていずれもやや登り勾配になつている。

2  交差点の四隅は隅切りになつていて、交差点北側は道路に沿つて鉄柵が設けられているほか、その東北隅には電柱があり、その電柱と柵との間には高さ約二米の看板が立てかけてあつた。

3  交差点付近には合計六個の照明灯が設けられており、事故当時は明るかつた。

4  原告は、仲間の訴外西村明夫らと焼酎約五合を飲んだうえ、右西村とともに事故現場に至り、そこで酔いつぶれて動けなくなつた西村を交差点東北隅の電柱北側に引つぱつて来たところで坐り込み、両足を交差点中心に向けて路上に投げ出し、背を鉄柵にもたせかけていた。

5  訴外下川は、事故車(タンクローリー、車長九・六米、車幅二・四七米)を運転して東西道路を東方から登つて本件交差点に至り、交差点手前で一時停止して通りかかつた歩行者一名をやり過した後、時速約五キロで交差点に進入して右折を始めたが、その際、前記原告らの至近に電柱や看板があつて多少の障害になつたとはいえよく注意すれば道路脇に坐り込んでいる原告らの姿を発見することができる状況にあつたのにこれを発見しえず、事故車前部が道路沿いの鉄柵に接触しないよう気をとられているうちに事故車右後輪で前記西村の頭部とともに原告の足部を轢過した。

以上の事実が認められ、右認定に反する〔証拠略〕は前記乙八号証の記載に照して信用できず、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

してみると、訴外下川には、狭い交差点に大型車を乗入れるに当つて自車の安全にのみ気を奪われ、電柱、看板等が障害になつたとはいえ、右方に対する安全確認を怠つた過失が認められ、ために原告らを発見できなかつたことが明らかであるが、他方原告においても、深酒をしたうえ、泥酔した仲間を道路脇に避難させておきながら自らは車の往来の当然予測される狭い交差点内で、危険を顧みず、足を投げ出したまま坐り込んでいた重大な過失があつたというほかなく、原告の右過失を訴外下川の前記過失と対比するとその割合は原告の七に対し下川の三と評価するのが相当である。

三、(損害)

原告が本件事故によりその主張の傷害を負つたことは当事者間に争いはなく、〔証拠略〕によれば、原告はその主張のとおり江東病院に入通院して治療を受け、自賠法施行令別表等級八級に相当する右足関節の機能障害、右足趾の用廃の後遺症を残していることが認められる。

そして、その損害の数額は次のとおり算定される。

(一)  治療費等 一三万七〇四六円

〔証拠略〕によれば、原告は入院治療費等四五万〇七四〇円、通院治療費等三四九〇円、松葉杖代一八〇〇円、医薬品代七九〇円の合計四五万六八二〇円を要したことが認められるが、前記過失を斟酌すると右金額が相当である。

(二)  休業損害 一四万四〇〇〇円

〔証拠略〕によれば、原告は事故当時、日雇常用大工として青木組で働らき、日給二五〇〇円を支給され、事故前の月収には月により上下はあるが月平均六万円程度の収入をあげていたことが認められる。また、原告が本件事故による傷害のため昭和四二年一二月一日から同四三年四月一〇日まで入院し、その後三回通院したことは前記認定のとおりであり、その傷害の部位、程度から推して、少くとも昭和四三年七月三一日までは稼働できなかつたものと認められる。そこでその間八月間の休業損害は四八万円と算定されるところ、前記過失を斟酌すると右金額が相当である。

(三)  逸失利益 一一四万七九七五円

〔証拠略〕によれば、原告は昭和八年一二月九日生まれの男性であるが、前記認定の後遺症のため青木組の現場に復帰後は、一般の大工の日給が三〇〇〇円のところ、日給二〇〇〇円が支給されていることが認められるから、原告の後遺症による労働能力喪失割合は三分の一程度と認められ、大工として稼働再開以後はさらに通院治療を続けるなどの特段の事情のない限り(本件では右特段の事情は認められない)、右割合による喪失賃金が本件事故と相当因果関係にある損害というべきである。そこで、前記月収六万円を基準として昭和四三年八月以降、稼働可能とみられる六〇歳までの二五年間の右労働能力喪失率による喪失利益は、複式(年別)ホフマン計算により年五分の中間利息を控除して、三八二万六五八四円と算定されるところ、前記過失を斟酌すると右金額が相当である。

(四)  慰藉料 四〇万円

原告の傷害の部位、程度、後遺証の程度および本件事故の態様ことに原告の過失割合等諸般の事情を考慮すると、原告が本件事故によつて蒙つた精神的損害を慰藉すべく、右金額が相当である。

(五)  損害の填補

原告が被告から一〇万円の弁済を受けたほか強制保険金合計一五一万円の支払いを受けたことは当事者間に争いはなく、また被告が他に四万円を支払つたとの点についてはこれを認めさせるに足りる証拠はない。

従つて、右の合計一六一万円が原告の以上損害額一八二万九〇二一円に充当されたものとみられ、その損害残額は二一万九〇二一円となる。

(六)  弁護士費用 二万円

〔証拠略〕によると、原告は被告に対する本件訴訟のため原告訴訟代理人に訴訟を委任し、法律扶助協会において原告のためその報酬三万五〇〇〇円を立替払いし、原告が同額の債務を負担したことが認められるが、本件事案の難易、前記請求認容額その他本訴に現われた一切の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係ある損害としては右金額が相当である。

四、(結論)

よつて、原告の被告に対する本訴請求は、前記認定額の合計二三万九〇二一円および右に対する事故発生の日である昭和四二年一二月一日から完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 倉田卓次 浜崎恭生 鷺岡康雄)

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